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大阪高等裁判所 昭和62年(う)700号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年六月に処する。

原審における未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人今中五逸及び被告人それぞれ作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

各論旨は、いずれも原判決の量刑が不当である、というのである。

各所論に対する判断に先だち、まず職権をもつて調査するに、原判決は、罪となるべき事実第一として、七個の事実からなる常習累犯窃盗の事実を、同第二の事実として、被告人が昭和六二年一月二六日午後四時ころ、大阪市港区磯路三丁目二七番先路上で犯した無免許運転の事実を各認定したが、原判決書をくまなく閲読しても、右第二の事実を認定した証拠としては、「被告人の当公判廷における供述」のほか、「司法警察員作成の運転免許証に関する調査報告書」を掲げるに止まり、他に何らの証拠を挙示していないことが明らかである。ところで、無免許運転罪を認定するにあたつては、被告人の自白がある場合でも、被告人が「運転免許を受けていなかつた」点のみならず、「当該日時に自動車を運転した」という点についても補強証拠を必要とするのであるが、原判決の挙示する前記調査報告書が被告人の運転免許の有無に関することのみの証拠で、運転行為には全く関係のないものであることは、記録上明らかであるだけでなく、その判決書に表示された証拠の標題自体からも容易に推察されるところであるから、結局、原判決は、無免許運転の事実を認定するのに不可欠な、運転行為の点に関する補強証拠を何ら挙示していないことが、判文自体に照らして明らかなものといわなければならない。そして、右のように、有罪判決の証拠の標目中に、有罪の認定をする上で不可欠な補強証拠を挙示していないことが、判決書自体に照らして明らかなときは、右有罪判決は、法の要求する最少限度の理由の記載を欠き、理由不備の違法があるものと解すべきである(大阪高等裁判所昭和五九年九月一九日判決・判例タイムズ五四五号三〇三頁参照)。従つて、原判決は、判示第二の事実につき理由不備の違法があるものとしてこれを破棄すべきであるが、原判決は、右事実を判示第一の事実と併合罪の関係に立つものとして、被告人に一個の刑を科しているから、結局、全部破棄を免れない。(なお、原判決が原判示第一の常習累犯窃盗の事実を認定した証拠として挙示する被告人の各自白調書及び各被害者の捜査官に対する各供述調書には、原認定にかかる各窃盗の被害品の時価に関する記載がないので、右時価の記載ある各被害届を証拠として挙示しなかつた原判決の証拠摘示は、この点でも適切を欠くといわざるを得ない。しかし、原判決は、各被害品の時価を含め公訴事実を全面的に認めた被告人の原審公判廷における供述を、判示全事実に関する証拠として掲げているから、右のような原判決の右証拠摘示は十全でないけれども、いまだ違法であるとまではいえない。)

よつて、各論旨に対し判断するまでもなく、刑事訴訟法三九七条一項、三七八条四号により原判決を破棄した上、同法四〇〇条但書に則り、当審において直ちに次のとおり自判する。

(罪となるべき事実)

原判決が認定した「罪となるべき事実」と同一であるから、これを引用する。

(証拠の標目)

原判示第一の一ないし七の証拠として挙示する、藤原前子、大木場純一、鈴木浩司、尾崎新一、長谷川進、金哲也及び梶谷淳一の捜査官に対する各供述調書を、いずれも、これらの者の作成にかかる各被害届と改め、同第二の事実に関する証拠として、「司法警察員作成の緊急逮捕手続書」を付加するほか、原判決摘示の証拠と同一であるから、右のとおり付加・訂正の上、これらを引用する。(なお、原審第一回公判調書によれば、右緊急逮捕手続書は、「被告人を緊急逮捕した状況等」という立証趣旨のもとに同意の上取り調べられたものであることが明らかであるところ、右立証趣旨によつては、右書証を、被告人の無免許運転の事実の補強証拠として申請する趣旨である点が必ずしも明示されていないから、この点を明示させることなくこれを取り調べた原審の訴訟手続には適切を欠く点があるといわなければならない。しかし、右緊急逮捕手続書が、原判示第一の七と同第二の各事実の共通の証拠として申請されていること、及び右書証の内容等に照らすと、右書証の前記立証趣旨は、逮捕直前の時点((すなわち原判示第二の犯行の時点))において、被告人が自動車を運転していたとの点を含むものと理解し得ないことはなく、従つてまた、右書証は、原判示第二の無免許運転罪の補強証拠となり得るものと解すべきである。)

(累犯前科)

原判決摘示のそれと同一であるから、これを引用する。

(法令の適用)

原判決摘示の各法条を適用(刑種の選択、累犯加重、併合罪の処理に関するものを含む。ただし、併合罪の処理中、「四七条本文」とあるのを「四七条本文但書」と改める。)した上、酌量減軽につき、刑法六六条、六八条三号を、原審における未決勾留日数の算入につき同法二一条を、原審及び当審における訴訟費用の負担免除につき刑事訴訟法一八一条一項但書を各適用する。

(量刑の理由)

本件は、少年時代からオートバイ窃盗をくり返し、原判示窃盗の前科四犯をも有する被告人が、またもや、オートバイ七台の窃取をくり返し、うち一台を無免許で乗り回していたという常習累犯窃盗、無免許運転の事案であつて、もとより被告人の刑責には軽からざるものがあるが、窃取にかかるオートバイ等が、被告人の自供に基づきすべて発見され、各被害者に還付されていること、原判示第一の四の被害者との間では、被告人の実母の努力により、修理代一万二〇〇〇円を支払つて示談が成立していること、被告人は、常習累犯窃盗罪で処罰を受けるのは、今回がはじめてであることなどの事情を総合考察した結果、酌量減軽の上、主文の刑を量定したものである。

(裁判長裁判官野間禮二 裁判官木谷明 裁判官生田暉雄)

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